059:グランドキャニオン(新) ヒカルなんか! ヒカルなんか、わたしが突然いなくなってオロオロすればいいんだ・・・。 わたしは、本当に。 「えー。さっき検討したばっかじゃん?」 「ちょっと待てよ。他に何かやってないかな?」 ヒカルが「りもこん」を忙しく指で叩き、箱の中の絵がどんどん変わって行きます。 その内人の背中が映り、それがどんどん遠ざかっていく絵になりました。 前にヒカルに聞きました。 よく分からないのですが、絵を繋げて、この世にはない光景をあるように描く事も出来ると。 箱の中の動く絵で、妙に色鮮やかなのは『あにめ』である場合が多いと。 「へ?ああ、これは普通にドキュメンタリーだよ。」 人の後ろ姿は有り得ないほど遠ざかり、芥子粒の大きさになります。 そして驚いた事に。その人物の立っていた場所は。 「とにかくこれは実際にある場所ってことさ。」 果てしなく続く雲一つない蒼天。 信じられないほど広く鮮やかで。 そして、赤い縞のある岩山が・・・数限りなく、地平線まで広がっている。 想像を絶する、そして何と美しい光景。 ・・・私には現のものとはとても思えませんでした。 箱庭だとてもその奇想天外な発想に仰天せずにはいられないのに、 映っていた人が本当の、普通の大きさの人だと言うのなら、何という、 何という、広大で異様な世界なのでしょう・・・。 絵が変わっても、私は目を離すことが出来ませんでした。 目は別の物を見ていても、頭にはさっきの光景が焼き付いて離れません。 「うん。えーっとな、確かアメリカだっけ?」 『・・・キャニオンが出来たのは今から約3800万年から3600万年くらい前の事。 太平洋の下に有る太平洋地殻がアメリカの大陸地殻を想像を絶する力で 押した時に・・・。』 「あ、やっぱそうだ。3000万年以上前に出来たんだって。」 「あったりめーじゃん。ってか、その何倍も昔からあったんだよ、アメリカには。」 この同じ世界に。 ヒカルが踏んでいる同じ地面のずうっと向こう。 私が踏んでいたのと同じ地面のずうっと向こう。 『ぐらんどかにおん』は、ずっとずっと存在していたのだ! 恐らく私が生きていた頃と、今と、何も変わらない顔をして。 そして私が消えても、ずっと未来、ヒカルが消えても。 ああ。知らなかった。そして最後に知ることが出来て良かった。 こんなに美しい場所の存在を。 「最後」・・・。 ・・・その時、私は不意に思い出しました。 今年の春。 私にとってきっと最後の春。 『ぐらんどかにおん』には無限の春が約束されていても、 私にとっては、最後の桜。 だからこそ、涙が出るほど美しかった桜。 ああ、世界はなんと美しかったのだろう。 ヒカルの心に宿り、現世に戻って再び太陽を、花を、雨を、雪を、見られた事を あんなに喜んでいたわたしだのに。 いつの間にか、忘れていた。 碁を打てる楽しさに。 この世の美しさを。 それでも、最後にそれに気付くことが出来た私は幸せ者ではないか・・・? ああ本当に、世界はなんと広く麗しいのだろう。 あんな場所が地上にあるなんて、思いも寄らなかった。 ・・・『ぐらんどかにおん』に咲く桜は美しいだろうか。 彼の地に降る雪は白いだろうか。 ねえ・・・ヒカル。 ん・・・? ほら、部屋に戻って布団に入らないと風邪をひきますよ。 ・・・ん・・・。 あの・・・さっきの、遠い異国の絶壁。ぐり・・・ぐら・・・ええと。 ん〜ん、・・・グランドキャニオンのことぉ? そうそう! それがどうした? ・・・わたし、一度行ってみたいです。 あー。無理だなぁ。手合い詰まってるし金ないし。 ・・・言ってみただけですよ。 はははっ!でも面白いよな。平安時代の幽霊が、グランドキャニオンに立つなんて。 よし!いつかな、連れてってやるよ。 無理しないで下さい。 オレも見たいし!アメリカに研修とかないかな? なくても休みとってさ、グランドキャニオン。絶対見せてやるよ。 ・・・ありがとう。 今すぐは無理だけど、いつかきっと。約束する。 ええ・・・いつか、きっと。 ヒカル・・・ヒカル? ん・・・何だよ。寝ろっつったのおまえだろ。 ああ、ごめんなさい。もう寝てましたか。 う・・・ん・・・何? ・・・ごめんなさい。何でもないですよ。 そう・・・おやすみ・・・・。 はい・・・。おやすみなさい。 −了− ※ヒカ碁でこのお題は難しいです。 |
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